原子力仮処分

昨年12月,広島高裁が,四国電力伊方原子力発電所が運転停止の仮処分を出しました。四国電力は異議申し立てをするそうですが,これが司法に認められなければ,切られた期限である30年9月30日までは稼働ができないことになります。止められた3号機は,出力89万キロワットですので,仮定の話として,発電単価をKWH当たり10円,ほかの電源でこれを代替するとして,その単価がKWH20円とすれば,差し引き10円の差となります。これが89万倍で利くわけですので,1時間当たり890万円。1日で約2億1千万円。月間で63億円の損失を被ることになります。これが向こう8か月間続けば,約500億円です。四国電力としてはたまったものではないでしょう。

今回の仮処分の決定は,発電所の機能や安全面に何か瑕疵があったわけでも,運転する者に問題があったわけではありません。理由はただ一つ。熊本県にある阿蘇山が数万年に1回あるかないかの噴火があったとすれば,その阿蘇山から火砕流が海を越えてやってくる『可能性がある』ということのようです。

過去に阿蘇山はそのような噴火もあったようですが,大規模な噴火は事前に相当な兆候があるようですし,何時なんどき噴火するのかの予測は難しいものの,兆候を観察しながら避難などによって被害を回避することは十分可能です。

大昔であればいざ知らず,これだけ情報社会だAIだといわれている科学の時代にあって,原子力が稼働する60年という時間軸に,桁が3つも違う数万年という時間軸を当てはめることは相当無理があるといわざるを得ません。中立であるべき裁判官が,あるかないかわからないが,可能性を否定できないとして物事を進めるとするならば,何でもありの結論となってしまいます。

一方,反原子力発電所派は,北朝鮮のミサイルが落ちたらどうなるか,という仮定で原子力発電所を止めようとしています。これも「落ちる可能性を否定できない」として扱うのでしょうか。時あたかも政府は,アメリカへの配慮もあるのでしょうが,イージスアショア2基(1基約1,000億円と言われています。つまり2,000億円の予算。)の導入を決めました。これはミサイルを迎撃するため,のようですが,政府もミサイルが来ることを予想してイージスを導入するわけですので,「落ちる可能性は否定できない」ということなのでしょうか。

なんだか言葉遊びのような気も致します。化石燃料に頼って温暖化を加速させ,巨大な台風や大雨,大雪,一方で干ばつなどの被害を拡大させる愚は早期に改めなければなりません。地球に起こる自然現象を止めることなどできませんが,英知を結集して自然災害被害を最小限に食い止めながら,地球と共生していくことが私たちに課せられた使命なのだと思います。

原子力は確かに危ないものではありますが,子供にあえて刃物を持たせて危ないことを学習させ,その裏側にある利器であることを理解させる。これは何にでもあてはまることだと思います。